MN15N/MP15P 電流帰還35Wパワーアンプ
('12.02.29訂正)
負電源トラッキングレギュレータ回路にミスが見つかりましたので訂正しました。
訂正前の回路では位相補償コンデンサ220pFの位置が違っていて、正帰還がかかっていました。
そのままでは負電源が発振します。
複合パワートランジスタ
秋月電子通商で、サンケンのMN15N/MP15Pというパワートランジスタが売られています。
DENONのAVアンプで使われるものらしく、海外ではAVR-3808の補修部品と称して販売されていたりなんかします。
パッケージの中にダーリントントランジスタとバイアス回路が封入されています。
励振段とバイアスが省略できると、案外助かるんですよね。トランジスタ3個が削減でき、その場所もすっきり片付きますから。
秋月では「SAP15N/SAP15P」のデータシートが添付されています。
トランジスタの特性やバイアス回路は同等なのですが、SAP15では内蔵されていたはずのエミッタ抵抗が入っていませんので、0.22Ωを外付けする必要があります。
データシートを鵜呑みにしてエミッタ抵抗を付けずに作ると大変なことになりますので要注意。
電流帰還型パワーアンプ
…というものの存在を知りました。
入
力信号をダイヤモンドバッファと抵抗でV/I変換→負帰還信号とミックスしてからI/V変換→SEPPバッファ→スピーカーへ出力という経路をたどりま
す。従来のパワーアンプで当たり前だった初段差動増幅回路が存在せず、アンプの中でエミッタ接地増幅をするのは1段だけ。
非常に広帯域で高速なアンプに仕上がるそうです。
今回は、
「半導体アンプで遊ぼう」(山田のタマさん)
「Nob's page of Audio---電流帰還FETアンプ」(Nobさん)
このお二方の作例を参考に、いっちょ作ってみましょう。
LTSpiceで動作を目で追いつつ電流や抵抗値をいじくって遊んでいたので上記2作とは各所の定数が異なりますが、動作原理はほとんど同じです。試みに初段コレクタ電流を可変して入力バイアスを打ち消す仕掛けを入れ、位相補償の仕方もちょっと変えてみました。
回路図はこんな感じです。
終段は非安定化電源で差し支えないのですが、それ以外は安定化が必要なため、±25Vの安定化回路も作りこんであります。
アンプ回路図を拡大(片チャネル、png) '12.02.29訂正
基板レイアウト例(10cm×7.5cm、部品面より、png) '12.02.29訂正
感光基板フィルム(部品面より透視、720dpi、png) '12.02.29訂正
一番左はuA723を使った+25V正電源と、NE5532を使った−25Vトラッキングレギュレータです。それほど消費電流は多くないので、パストランジスタは使わず直接負荷を駆動します。
基板レイアウトの都合上、定電圧電源の直後に0.1uFのフィルムコンデンサが入るため安定性を損なう要素になりかねないのですが、隣にいる100uFの電解コンデンサがうまいこと負帰還安定性を確保してくれます。
入力された信号は、2SC2240と2SA970で構成されたダイヤモンドバッファに導かれ、その出力はR17(75Ω)を介してGNDへ流れます。
これによって入力信号の電圧振幅は、R17を貫く電流の大小に変換されます。
その電流は、検出抵抗R4,R7とトランジスタQ5,Q6によって再び電圧振幅に戻されて、それをSEPPバッファで電流増強してスピーカー出力となります。
スピーカー出力は負帰還抵抗R15,R16によって戻され、R17へ注入されます。
でもR17を貫通する電流の大きさは、入力信号電圧をR17の抵抗値で割った値であり、負帰還があろうとなかろうと不変です。そのためR15,R16を経由してR17に注入される電流が増えれば増えるほど、ダイヤモンドバッファから流入する電流は減少します。
このように、電線を繋いで電流を流入させるだけで、入力信号と負帰還信号の差を取る動作をしてくれるわけです。
入力信号と負帰還信号の差を取るために、電圧帰還アンプではエミッタ接地を含んで低速な差動増幅回路を使わなくてはいけませんでした。
それが電流帰還アンプでは不要になるのですから、その分高速になるわけですね。
入力端子の直後にあるQ2とQ3ですが、バイポーラトランジスタですからベース電流が流れます。
これはパワーアンプにおける入力バイアス電流となり、音量ボリュームの位置次第でスピーカー出力端子から直流オフセット電圧が出てきてしまう原因となります。
PNPトランジスタからは電流が吐き出され、NPNトランジスタは電流を吸い込みます。
も
し両トランジスタのベース電流が同じ量であれば、打ち消し合ってバイアス電流がゼロになります。そうすると入力端子にカップリングコンデンサが不要にな
り、低域の特性が素直になり、また音量ボリュームがどの位置にあってもスピーカー出力端子から直流オフセットが出てこなくなるでしょう。
ですので、初段ダイヤモンドバッファに使うトランジスタは選別が必要です。
2SC2240/2SA970はGRランクまたはBLランクを使ってください。秋月で100個1袋買ってもいいでしょう。
まず2SC2240を測定・選別して、VBEとhFEがほとんど等しいペア(2個1組)をいくつか作ります。
これらのペアは適当な袋に入れて、hFE値を書き記しておきましょう。
次に2SA970も同じようなペアをつくり、袋に入れてhFE値を書き記します。
hFE値の分布がバラけるように各々のペアを作ったら、極力hFE値の近い2SC2240ペアと2SA970ペアを1組ずつ選出します。
そして選ばれた2SC2240と2SA970を平らな面どうし合わせて接着、銅テープで巻いたらできあがり。
どっちが2SC2240でどっちが2SA970か判別できなくなることのないよう、必ず接着前に目印をつけておいてください。
片チャネルあたり2組4個を必要とします。
左チャネル用に作ったペアか、はたまた右チャネル用のペアか、判別できるよう目印の色を変えるとよいでしょう。これを間違えると、hFEで選別した苦労が無駄になってしまいます。
NPN同士(またはPNP同士)のVBE差を1〜2mV以内、hFE差を1%以内で組み、NPNとPNPでのhFE差を5%程度まで許容ということにしてみました。
各40個程度測定して、ステレオ2台分作れそうな数のペアがとれました。
一気に100個測定すれば収率が上がるでしょう。
多分、NPNペアやPNPペアを作るのはかなり簡単で、各々多数得られるはずです。
でもNPNペアとPNPペアのhFE差がどこまで縮まるかは運次第なところがあって、そこが難しいといえるかもしれません。
とりあえず理屈ではその差が20%あってもVR1の調整で吸収できるはずなので、最善を尽くした後でほどほどに妥協して組みましょう。
基板にこれらのトランジスタを実装した後、さらにQ2とQ3を熱結合するとなおよろしいです。
R13,R14,R18,R19は3Wくらいの巻線抵抗や酸金抵抗を使ってください。
R13,R14,R19は巻線抵抗が聴感上良好で、R18は酸金などのインダクタンスが少ない抵抗がよさそうです。
(実機では全部巻線使ってますが)
C3は30pFという中途半端な値になってますが、昔懐かしいスチコンを使っているためです。
現在入手可能なパーツで組むならマイカ、フィルム、セラミックコンデンサあたりのいずれかを使い、値は33pFにしておいてください。
Q5,Q6に放熱板は不要です。
D1,D2,D3,D6は手持ちの1N4007を使ったのですが、本当は1A定格くらいのSBDにした方がいいような気がします。
D4は1N4148を入れています。
VR1とVR2は多回転タイプを使ってください。VR3は1回転のもので十分です。
L1は、UEW0.8線を8mmの筒に5回くらい密に巻くとそれっぽいものができます。
回路図には記入がありませんが、入力端子に20kΩ〜50kΩのボリュームを取り付けることを想定しています。
電源
定電圧部の電源には±28V〜±38V、終段には±23V以上の整流・平滑・非安定の電源を用意してください。
今回もだいたいこんな感じでいいでしょう。
定電圧部にはトヨズミのHT-5002を1個、25Vタップをセンターとして使い、それをSBDで整流、2700uFのコンデンサで平滑して与えます。
終段は手持ちのRコアトランス(AC25V、70VA)を2個使い、それをSBDで整流、16000uFのコンデンサで平滑して電源としました。
ミュート基板
今回はなくても困らなさそうな気がしたので、省略しました。
実装
リードのS-1シャーシ裏に詰め込んであります。
表はネジがいっぱい露出してますが、気にしない気にしない。
結構大きいケースなので、もしかしたらケース自身だけで放熱できるんじゃね?
などと安直に考えてヒートシンクは付けないことにしました。
通常使用の範囲では放熱が足りてる感じです。あともう少し冷えると安心ですけどね。
調整
VR3を左(最小抵抗値)へ回しきってから電源を入れます。
最初にとりあえず終段アイドリング電流を調整しておきましょう。
40mA以上あれば正常動作しますが、あとはお好みで。
まずMN15NのS端子(エミッタ)〜MP15PのS端子(エミッタ)間の電圧を測ります。
VR3を回して、20mVを指すようにします。
次は入力バイアス電流をゼロに合わせ込みます。
入力端子に何か繋いである場合は、いったん外してください。
入力端子〜GND間に感度の良い電圧計を繋ぎます。0.1mVの桁まで測れるものがいいですね。
VR1を回して、電圧が極力ゼロに接近する位置に合わせます。
最後に出力オフセット電圧をゼロになるよう追い込みます。
感度の良い電圧計でスピーカー出力端子の電圧を測定し、VR2を回してゼロにもっとも接近するところへ合わせます。
温度変化でオフセット電圧は変動しますが、どのような場合でも20mVを切っていれば実用上問題ないでしょう。
最後にもう一度終段アイドリング電流を確認して、目的の電流値とずれているようならVR3を回して再調整します。
測定
1kHz正弦波入力、6.7Ω負荷、クリッピング状態の波形。
35Wくらいまでは歪みなく出せそうな感じでした。
10kHz矩形波入力、6.7Ω負荷、ダミーロード両端で観測
割と素直ですね。
約50V/usですか。さすが電流帰還、今までより速いです。
ちなみに、アイソレータ(発振防止コイル)より内側ではこんなことが起きてます。
170V/us!
爆速です!
もしかして、測り間違えてないよねえ(笑)
容量性負荷をつないだときの様子を観測します。
上:10kHz矩形波入力、6.7Ω+0.1uF負荷、ダミーロード両端で観測
下:10kHz矩形波入力、0.1uF負荷、コンデンサ両端で観測
問題なさそうですね。このまま使いましょう。
歪率を測定しました。
縦軸は歪率(THD+N,単位%)、横軸は出力(単位W)。
負荷は6.7Ω抵抗で、BW=80KHzのフィルタが入っています。
思ったよりいい感じです。
残留雑音は、入力短絡・ボリューム最大時にオーディオアナライザの電圧計読みで
左側 150uV(5〜300kHzフラット) / 40uV(WTD JIS-A)
右側 170uV(5〜300kHzフラット) / 50uV(WTD JIS-A)
となりました。
出力端子の直流オフセット電圧は、通常0.8〜3mV程度でした。
さすがに高温になると増えますが、大出力を繰り返し出すようなテスト後でも左3mV/右12mV程度だったので支障ない範囲です。
いずれの場合も、ボリュームを回しても0.5〜2mVくらいしか変動しません。
鳴らしてみる
最初にはっとするのが、解像度の高さ。
細かいところがよく聴き取れます。
今まで持っていたCDをいろいろ引っ張り出して聴いてみても、今まで気づかなかったものが聴こえるという新しい発見があります。
また音の周囲にある気配というか張り詰めた空気というか、そういうものが感じ取れるような気が。
歌ってるひとの息遣いもわかりますし、声がよく飛んできます。
なかなか押し出しがいいですな。
比較対象として、以前作ったディスクリートアンプを出してきて再び聴いてみます。
作った時にはさわやか清らかで澄んだ音がしていて、大人しいけどいいアンプだなと思っていたものです。
繋いで音出し。
澄み切った音が自慢だったはずですが、電流帰還アンプの音を知った後で聴くと全体的にぼんやりしているように感じます。
こんなにもやもやした音のアンプじゃなかったはずだけどなぁ…。
再び電流帰還アンプ登場。
やっぱり細部の表現力と広帯域感、押し出しがかなり良くなっています。
電源投入時のポップ音ですが、ミュートリレーを入れなくても苦にならない程度の小さい音がたまに出る程度でした。
電源を切ったときのポップ音はありません。
音楽を再生しながらの状態で電源を切ると、フェードアウトしていきます(笑)。
うん、これは大成功でした。
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