オペアンプ+パワーMOSFET 15Wパワーアンプ


以前製作した六田式A級アンプですが、増幅回路の作りやすさに比べると電源に投じるべき物量が大きすぎて手軽さに欠けるのが難点でした。今回は、もうちょっと手頃にサブシステム用として使えるパワーアンプを作ります。

設計目標

目指すところはこんな感じで。

オペアンプ+電流ブースターで構成
出力は10〜15W程度
±18V 1A程度の電源トランスを使う
9.5cm×7.2cmの一般的なユニバーサル基板に2チャネル分の増幅回路を収める
極力コンパクトに

ということで、全体の規模とお値段を決定づけそうなパーツから選んでいきます。

電源トランスはトヨズミのHT-1712を使うことにしました。
17V-0-17V AC1Aの出力が取れます。
最大出力連続ってことはあまりないものとして、これくらいでいいでしょう。

これに一般的な100V耐圧のダイオードブリッジと、ボントンで買ってきた50V10,000uFのコンデンサを2個組み合わせて電源回路を組みます。

電力増幅を担うパワー半導体はオーディオ電力増幅用の品種にこだわらず、豊富に出回っているスイッチング用MOSFETから選ぶことにしました。
そうなると最初に頭に浮かぶのが2SK2232。電流容量的に十分で、扱いやすいTO-220パッケージ。マイコンの出力ポートでモーターを回すような用途には丁度よいため、広く使われていて入手も容易です。1個100〜200円くらいで買えるでしょう。

でも、2SK2232と組むPチャネルMOSFETはどうするんでしょう。
メーカーもコンプリメンタリの設定はしてませんよ?
ということで、似たような性能で入手性のよいMOSFETといえば2SJ304と2SJ334が思い浮かびますね。今回は入力容量が比較的小さい2SJ304を使いましたが、多分2SJ334でも動くとは思います。

これらを収めるケースとしては、タカチのMB-6が使えそうです。
140mm×75mm×200mm。あまり余裕はありませんが何とかなるでしょう。

増幅回路

d3mf-s-sche1t.jpg
(全体回路図)
(基板レイアウト例)
(基板パターン例 720dpi)
(電源回路)

オペアンプの出力端子にバイアスを掛けて、直接MOSFETを駆動するだけの回路です。
バイポーラパワートランジスタで必要だったドライバ段が要らないのがMOSFETのいいところ。
オペアンプの出力スイング範囲を極力活かすため、バイアス回路はVbeマルチプライヤとダイオード2直列をそれぞれプラス側とマイナス側に挿入しました。オペアンプに供給する電源は、過電圧にならないよう1石シリーズレギュレータで軽く安定化します。

MOSFETはケースにネジ止めして熱を逃がすようにしてあります。
また、Vbeマルチプライヤの2SC3421も同様にネジ止めしてMOSFETの発熱を拾えるようにしてください。熱暴走を防ぐために重要です。

d3mf-board.jpg

使用部品

今回は特に変わった部品を使ってないので、調達は難しくないと思います。

基板上の1,000uFコンデンサは低ESR品を使っていますが、寸法上の都合でそうなっているだけで、別に一般用電解コンデンサでも差し支えありません。容量を数百uFまで減らしても問題ないでしょう。

電解以外のコンデンサは、すべてフィルムコンデンサを使います。ここに積層セラミックコンデンサを使うと明らかに音が悪くなるので避けてください。

抵抗のほとんどは普通の1/4Wカーボン抵抗が使えますが、0.22Ωと10Ωは2W以上の巻線抵抗または酸化金属皮膜抵抗を使ってください。
半固定抵抗は安価で2.54mm直列ピッチが使いやすいリンクマンの多回転抵抗を採用しましたが、多分1回転タイプでも差し支えないとは思います。

出力側のインダクタは手巻空芯コイルです。直径10mmの筒に0.8mmUEW線を10〜11回ほど密に巻いて固めるとちょうどいいインダクタンスになります。

MOSFETは2SK2231と2SJ304を使いました。選別などはしていません。
2SC3421の代わりに2SC3422を使っても普通に動きます。要はVbeが常識的な電圧で放熱板に固定できるトランジスタならだいたい使えるんじゃなかろうかと思います。

オペアンプはOPA2134を使用しました。JFET入力、過度に高速でない、出力電圧のスイング範囲が広いという条件があるので、使用できる品種は絞られてきます。とりあえずAD823とMUSES01では動作を確認しました。

アイドリング調整

d3mf-adj.jpg

調整箇所は片チャネルにつき1箇所、アイドリング電流を決めるVRだけです。
VRの抵抗値が最大になるよういっぱいに回しきってから電源を入れてください。

2SK2232 のソース〜2SJ304のソース間電圧を測定すると終段アイドリング電流を知ることができます。一般的にMOSFETの場合はアイドリング電流を多く流す 必要があるのですが、電源の能力に限りがありますので100mA(44mV)くらいにしておきました。可能な限りアイドリング電流を増やせば、歪率低減に 効果があるでしょう。

もしVRを端まで回してもアイドリング電流過大になる場合は、D5かD8のどちらか一方を短絡して再調整してみてください。

d3mf-sidev.jpg

動作テストと測定

正弦波を入れてオシロスコープで観察したところ、6.7Ω負荷で10.0Vrmsまではクリップしませんでした。およそ15Wというところです。


d3mf-clipview.jpg

10kHz矩形波を入れて、出力波形を見てみます。

d3mf-sqrview1.jpg
d3mf-sqrview2.jpg

(上:6.7Ωのみ、下:6.7Ω+0.1uF)
特に不安定を誘いそうな問題もないみたいです。

歪率(THD+N)を測ってみました。

d3mf-dist.png
もうちょっと頑張って欲しい気もしましたが、悪いかといえばそうでもありません。
オーディオ用コンプリでもないMOSFETを少なめのアイドリング電流で動かしているせいで、ちょっと歪率が高いのかも。

鳴らしてみる

全体的にそこそこ密度のある鳴り方をします。あと、幾分押し出しがよいですね。
ポップスのヴォーカルとか、不思議とポイントを押さえていてそれらしく聴かせます。
六田式A級アンプのような艶っぽさでもなく、ディスクリートアンプのようにバックグラウンドの静寂感も出ませんが、普通にバランスがとれた感じがします。
PCの音声出力用サブシステム向きとしては相応しいというか。
パワーアンプICを使ったときにありがちなもっさり感やざらっとした感じが少なく、きっとそれが終段外付けの効果でしょう。

比較的低コストでちょうどいい感じの仕上がりだと思います。

d3mf-fin.jpg


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