FN1242AシングルDAC


秋月電子通商で、FN1242AなるDAC ICが販売されています。
192kHz/24bit入力に対応するマルチΔ舶式のDACで、今回は使いませんがDSDにも対応していたりしていまどきのハイエンドDACらしい 感じのパーツです。
FN1242Aは、TEACやラックスマンのCDプレーヤーあたりによく採用されています。

特長をさらりと挙げると、
32〜192kHzサンプリングのPCM、およびDSDに対応。
8fsディジタルフィルタ内蔵。
フルエンシー理論に基づくユニークなディジタルフィルタを採用。
マイナス電源不要。
100kHzアナログフィルタがチップ内に用意されていて、しかも差動電圧出力。

フルエンシー理論というのが謎ですが、なかなか使いやすそうです。しかも秋月で買えば800円。



fn1242a

DAC自身は正電源(+3.3Vと+5V)で動作するのですが、後段の差動増幅回路をちゃんと動作させるためには負電源を用意してやりたいものです。 AD823などの低電圧でそこそこちゃんと動くオペアンプに限定して単電源構成にすることも考えたのですが、いろいろオペアンプを取り替えてみる楽しみも やっぱり欲しいですよね。

そこで+12V→-12Vの反転レギュレータを組み込んで、±12Vの両電源を用意することにしました。
今回は手持ちの都合でLM2596T-ADJを使っています。
LM2596はもともと降圧DC-DCコンバータ用のICなのですが、反転コンバータとして使う例がデータシートに示されていますので、これをそのまま 採用しました。
LM2596は、周辺のパワーインダクタと一緒にマルツで売られています。
LM2596ではなく秋月で買えるLT1172と太陽誘電のパワーインダクタで再設計してもよいですし、完成品のオンボードDC-DCコンバータを使って 手軽に仕上げるのもひとつの手です。

3.3V電源とリセット、ミュート信号はDAI基板からもらいます。

FN1242AにはDAI基板からシステムクロック(RMCK)を供給しないといけないのですが、128fsさえ与えておけば32kHz〜192kHzまで対応します。
(CS8416基板のSJ2を切り直すと128fsに変更することができます)
他品種と違い、32kHz〜96kHzは256fs、それより上は128fsじゃないと動かないとかいう面倒くさいことを言わないのはいいところ。また、システムクロック倍率とサンプリングレートは自動判別なので、ディジタル部の回路が簡単になります。

回路図(png)
部品配 置図(部品面より、png)
感光基板 フィルム(部品面より透視、720dpi、png)

部品表

番号 品名 記事 入手先
IC1 7805 三端子レギュレータ
IC2 LM2596T-ADJ スイッチングレギュレータIC マルツ,RS,Digi-Key
IC32 FN1242A ステレオD/AコンバータIC 秋月
IC33 LME49720 2回路オペアンプ、他品種差し替え可
L1 RTP8010-221M 220uH 0.82A マルツ
L2 RTP8010-680M 68uH 1.5A マルツ
L3 RTP8010-221M 220uH 0.82A マルツ
D1 2GWJ42 SBD 1A以上(1S3,1N5822,11EQS04等) 共立
D2〜D3 1N4007 一般整流用 1A以上(10DDA10等) 秋月
D5 2GWJ42 SBD 1A以上(1S3,1N5822,11EQS04等) 共立
R1〜R2 47KΩ 1/8〜1/4W
R3 1KΩ 金属皮膜 1/8〜1/4W
R4 9.1KΩ 金属皮膜 1/8〜1/4W
R30〜R37 22KΩ 音響用推奨
R38〜R39 330Ω 音響用推奨
C1 1000uF 日ケミKZE 35V (低インピーダンス品)
C2 0.1uF (104) フィルム
C3 2200pF (222) フィルム
C4 220uF 日ケミKZE (低インピーダンス品)
C5 220uF 一般アルミ電解 低インピーダンス推奨
C6〜C7 470uF 一般アルミ電解 音響用推奨
C8 220uF 一般アルミ電解
C9 470uF 一般アルミ電解 音響用推奨
C10 0.1uF (104) フィルム
C11 100uF 一般アルミ電解 音響用推奨
C35 1uF 0.1uF〜1uF 積層セラミック(1608サイズ) 秋月
C36 100uF 一般アルミ電解 音響用推奨
C37 0.1uF (104) 積層メタライズドフィルム MMT,MTF,ECQV等
C38〜C41 68p マイカまたはフィルム 68pF〜100pF
C42〜C43 0.1uF (104) 積層メタライズドフィルム MMT,MTF,ECQV等
C44〜C45 100uF 一般アルミ電解 音響用推奨
C46〜C47 3.3uF 音響用推奨 無極性電解またはMMT,MTF等
C50〜C51 0.1uF (104) 積層メタライズドフィルム MMT,MTF,ECQV等
C52〜C53 3.3uF C46〜C47と同様、ただし実装しなくても動作する


オペアンプは、オーディオ用途で用いられる品種ならたいてい使えます。ただし、ユニティゲイン(+1倍増幅)で安定するものを選ぶこと。

アナログ部の抵抗(10kΩ×8、330Ω×2)ですが、これはお好みで。ただし横幅に余裕がないので、一般用1/4W抵抗程度のサイズのものしか載らなさそうです。タクマンのREXやREYなどが実装しやすいでしょう。

出力カップリングコンデンサ(C46,47,52,53)はニッセイMMTの3.3uFを2並列にしてありますが、ここも好みで容量・品種・個数を決めることができます。電解コンデンサを使う場合は、無極性タイプを使ってください。

アナログ電源のパスコン(C37,42,43,50,51)には可能な限り良質なフィルムコンデンサを使いたいところですが、スペースの都合上、パナソ ニックECQVやニッセイのMMT,MTFなどの積層メタライズドフィルムが現実的な選択になると思います。大きさがちょうどいいので積層セラミックを入 れたくなりますが、雑音や歪みの原因になるので奨められません。

オペアンプ周辺のC38,39,40,41は容量が小さすぎてかえって選びづらいかもしれません。理想を言えばディップマイカですが、あれは高価です。マ ルツに安価なディップマイカが置いてあったのでそれを採用していますがやっぱりちょっと高いので、100pFのフィルムコンデンサか68pFの温度補償セ ラミックコンデンサとしておくのが安価でよいのかも。

C2,C3,C10はフィルムコンデンサなら何でもよろしいです。よくある黄色いマイラコンデンサで十分。

C1とC4は反転コンバータの動作に重要な役割を担っています。低インピーダンス電解コンデンサを使ってください。C1には25V程度の電圧がかかります ので耐圧に注意。ESRは低ければ低いほどよく、容量も大きくする分にはあまり問題になりません。C4は起動の安定性にかかわるので指定容量のものを使っ てください。C4をOSコンなどに変更する場合はフィードバック安定性についてよく検討する必要があると思われますので、KZEまたはその相当品にしてお くのが無難です。

鳴らしてみる

音質にかかわりそうな部位について、こんな感じの部品を入れてみました。

番号 品名
IC33 LME49720
C7 ファインゴールド 470uF
C6,C9 ファインゴールド 1000uF
C10,C36,C44,C45 黒ミューズ 100uF
R30〜R37 タクマンREX25
R38,R39 DALE RN60
C46,C47,C52,C53 ニッセイMMT 3.3uF
C38〜C41 マルツのディップマイカ 47pF
C37,C42,C43,C50,C51  パナソニックECQV 0.1uF

総じて穏当というか、帯域バランスに変な癖がない印象。なんか心安らかに聴けちゃいます。
(強いていえば、高音が華やかでない)
マルチビット厨の私が聴くといまどきの美音というか、ゴツくないところがなんかかえって新鮮。
ゆったり鳴っているので緩んでいるかといえばそんなこともなく、不思議と高い解像度をもっています。特に低音の表現にそんな印象がありますね。低音に注目して聴くと、ちゃんと階調がある。
消えゆく音の美しさがいいですねぇ。

オペアンプを交換したり、コンデンサの品種と容量を変えて楽しむこともできます。

最初の動作チェックに使うのは、だいたいOPA2134と決まっています。電気的に気難しくないため動作させやすいのが何よりの長所。またそこそこ安価でオーディオ向けっぽい音質である点もよろしいです。

OPA2604はどんな状況でもうまいことOPA2604の音にしてしまいますね。なにやら声に情感みたいなのを注入するような感じ。迷ったら入れてみるオペアンプの有力候補だったりします。

5532だけでTIのNE5532AP、NJM5532DDの艶ありと艶なしを聴いてみたのですが、意外に聞き分けできるものですね。基本路線は同じなのですが、抜けのよさというか細部の見通しというか、そんなのが変わってきます。

NJM2068DDは、なんか無難というか、日本の音。もうちょっとごにょごにょしたところを頑張って欲しいと思うのですが、でも大枠で差し支えないというか、正しく動作している感じはします。

で、LM49720にしてみるのですが、これが気難しいこと気難しいこと。最初はザワザワしたり中域のごく限られたところにピークができたり大変でした。 解像度の高さと抜けのよさ、ケレン味の少なさは今までのオペアンプと違う良さがあるっぽいのですが、うまくバランスがとれず耳が痛い。
C6とC9を何度か交換して、やっとフラットな感じになりました。すると本当に素晴らしいんですなこれ。それまでうまく鳴っていたNJM2068DDかOPA2604のどちらかでと思っていたのですが、もうLM49720をおいて他はない感じ。

その後

負電源DC-DCコンバータを剥ぎ取ってしまいました。
もしかしたらスイッチング電源が入っているのはよくないのかなぁと思いまして。
オペアンプの電源にNJM2930F85を追加して、+8.5Vの単電源動作に変更しました。
このような電源条件で良好な動作をするオペアンプとして、OPA2134やAD823などが挙げられます。
現在はOPA2134を入れているのですが、アンプとの相性というか気難しさというか、そういうものが少々減ったように思います。
無難になったともいえますね。

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